誰でも読める! 今日から読める! 英語論文の読み方※(米印)

論文を読もう!

 急に何か知りたいことができたとき、皆さんならどうしますか?
 そりゃあ、まずは今この記事を見ているパソコンやスマホから検索するのだと思います。wikipediaとか見たりして。お手軽ですしね。
 ただ、やや込み入った内容になったりすると、wikiちゃんだけでは物足りなくなってくるでしょう。そういうときには違う媒体に浮気する必要があります。
 真っ先に思いつくのは書籍です。本にありついてしまえばこっちのもの。もうwikiちゃんのことなんて、末尾の参考文献くらいしか見なくなります。
 
 とはいっても、本を読むためには図書館なり本屋なりに行かないといけません。お外怖い……花粉怖い……
 ネットで注文して届くのを待つという手もありますが、いずれにしてもちょっと時間がかかります。
 
ああ、図書館の中に住めたら良いのに!! できれば国会図書館の中に!
 
 でも、その「図書館」が目の前の小さなハコに収まるような手段があったとしたら……? 一度外に出たら目の痛みと呼吸困難に襲われるこの最悪の季節でも、部屋の中から一歩たりとも出ずに、書籍と同じか、場合によってはそれよりも正確で充実した情報を無料で摂取できる方法が、あるとしたら……
 
 それこそが論文です。
 
 論文もお金かかるんじゃないの? と思うかもしれません。いいえ、そうでもないのです。近年はとくにオープンアクセス化が進んでおり、かなりの割合の論文は無料で読むことができます。
 お目当ての論文を見つけた後は、たとえば、「Unpaywall」というgoogle chromeの拡張機能などを使えば、その論文のPDFを合法的にダウンロードできる方法を探してくれますよ。
 さらに、もしもあなたが大学生や大学の教員、または研究機関の職員等である場合、論文ジャーナルと包括的な契約が結ばれている可能性が高く、有料で出版されている論文たちも読むことができるかもしれません。
 
 論文はお手軽です。お金はかからない、本よりずっとページ数が少ない、しかも、だいたいは一つの決まった目的のために書かれているので、趣旨も理解しやすい。
 「論文」なんて言うから小難しく感じるだけで、英語にすればだいたいはarticle「記事」かpaper「ペーパー」ですから、そんな大げさなものじゃあないのです。むしろ本よりずっと楽ですよ。

英語論文を読もう!

 さて、これでもう皆さんは論文を読もうという気概に満ち満ちていると思いますけれども、ついでにもう一つおすすめしたいことがあります。
 それは英語の論文を読んでみないかということです。
 
 英語。イングリッシュ。えげれすやあめりかという、はいからな国々で使われているらしいあの言語のことです。
 「英語なんて読みたくないよ~~~大学入試でもう一生分読んだよ~~~」というそこのあなた。お気持ちはわかります。けれども、どちらかといえばこれは英語で読まなければならない、読まざるを得ないという話なのです。
 とくに経済学では顕著なのですが、一流の研究はほとんどが英語です。今一番流行っている研究が、というだけでなく、これまでに積み重ねられてきた、研究の核になる重要な文献がみな英語なのです。
 ほとんどの自然科学、社会科学、また歴史や地域研究であっても、よほど日本に密着している研究でもなければ、大抵の研究は英語です。
 なんなら、私の高度経済成長(まさに日本史!)の動画ですら、参考文献を見ればLincolnさんの”Japan, Facing Economic Maturity”という本があります。
 
 私たちは英語を避けては通れません。その分野を研究し続けようとすれば、いつかは英語文献に出会ってしまって、読むしかない状況に追い込まれてしまうのです。「わたし英語文献、いまあなたの後ろにいるの……」と。

英語論文、ざぁ~こ

 けれども、実は英語論文なんてなんにも怖くありません。雑魚ですよ雑魚。
 大真面目な話、あなたが思っているよりも3000倍は楽勝です。「英語読むのやだな~」を乗り越えるのが一番難易度高いレベル。
 この落差にはちゃんと理由があります。大きく分けて2つ、前提知識があることと、「数字」があることです。
 
 大学入試や何かで英語に苦手意識のある方、ご安心ください。あれはむしろ大学入試の難易度がおかしいのです。
 他言語の文章を読む際に大切なのは、文脈の理解と言葉の理解の両面です。試験でよくある長文読解の問題は、いきなり文脈も何もないで英語が羅列されるのですから、読めたもんじゃありません。単語から必死に文脈を推測するという、わけのわからない作業が要求されてしまいます。
 一方、あなたが自分から英語論文を読もうとするなら、それはあなたが既に日本語の文献で既に知っている分野のものでしょう。前提知識、とりもなおさず文脈への理解が十全にあるのです。多少単語がわからないくらい、どうとでもなります。
 それに、別に試験のような重箱の隅をキツツキのようにつつきまくるような問題を解く必要もありません。だいたいの意味がつかめれば勝ち。あとは気になったところだけしっかりと読めばもう120点です。
 
 もう一つの理由なのですが、これはとくに経済学や理系分野では「数字」だけでなくアイツがいます。そう「数式」が。
 日本語で学んでいる間、おそらく皆さんを散々苦しめたであろう数式。けれども、日本語だろうが英語だろうが、数式の書き方は何一つ変わりません。つまり、数式が理解できているなら、日本語であれ英語であれ、あるいはいっそもっと違う言語だとしても、同じように通用するのです。
 散々戦ったライバルがいざというときに味方になる熱い展開です。もちろん、そういうゲームにありがちな、「味方になると弱い」なんてこともありません。むしろ、ある友人は数式だけ追っときゃ文章なんて読む必要ないと言い出すほど。……それは言い過ぎだと思いますけどね。
 もちろん、文系分野でも、近年は統計やデータを用いた研究が増えています。こういった部分は、ただ数字が羅列されているだけですし、英語の能力がなくとも簡単に理解することができます。そして文脈がわかっていれば、データの意味もある程度推測がつくわけで。内容も「やっぱりそういうこと言いたいのよね」というように、すんなり入ってきます。
 

論文の読解テクニック

 ようやくこの記事の題名と関係しそうなところにやってきました。
 さて、いざ英語論文を読む覚悟がついたとして、では頭から最後まで通して一気に……というのではちょっと大変です。私もやりません、そんなこと。
 ならばどうするか、ちょっとしたテクニックを使います。
 
①まずタイトルと概要(abstract)を見る
 
 論文にはタイトルがついています。当たり前ですね。
 「そんなもの読んで何になるんだ?」と思うかもしれません。でも、実はタイトルには情報が沢山詰まっているのです。
 学問には色々なジャーゴン(専門用語や特殊な用法)があります。だから、あえてタイトルにその語を用いる、というのは、何かしらの意図があることが多いのです。たとえば、経済学ならutility(効用)というだけで伝わりますし、もし「transferable utility」(譲渡可能効用)と言えばもう論文のジャンルすらわかります。
 さらに、最近はどこぞのライトノベルみたいに長文タイトルの論文も多くあります。こういう論文はまともにタイトルを読んでやれば、門外漢でもだいたい意味がわかるでしょう。いやもうそれはabstractに書けって感じですけれど……(検索に引っ掛かりやすくて引用されやすくなるとか、ならないとか……)
 
 また、abstract(概要)はぜひとも読んでもらいたい部分です。
 ちょっと前までは「小説のあらすじみたいなもの」とか言っていたのですが、むしろファスト映画に近いと言うべきかもしれません。論文の要点まとめ! (実験結果の)ネタバレ有! みたいな。もちろん、abstractは筆者本人が書いていますので、しょっぴかれたりする心配は全くありません。完全に合法です。
 これさえ読んでしまえば、ファスト映画のごとく「あー、それ見たわ私も。意外だったよね」と会話に参加できちゃいます。
 ちなみに、有料の論文でもだいたいはabstractが無料で公開されていますので、もし気になるものがあればabstractを読んでみてから購入を考える……というのも良いかもしれません。
 
②一番後ろのconclusion(結論)を読む
 
 ではタイトルとabstractを読み終わった皆さん、それでもまだこの論文を読んでいたいという場合は、次はそのPDFを一番下の方までスクロールしましょう。そしてまとめの部分、conclusion(これは論文や分野によって違う書き方になっていたりします)を読むのです。
 「そんなことしていいの?」、もちろん良いんです。別にテストを解くわけでもないし、推理小説を読んでいるわけでもない。犯人が海岸沿いの崖で涙ながらに説明している箇所から見てしまえば、もう残りの部分なんて全部「はいはい、知ってっしー」で済みます。
 「いきなり結論部を読んで理解できるの?」、たしかにもっともな疑問です。ただ、もしも理解に苦しむ論文があったとすれば、それは筆者が悪い。結論部も満足に書けないんじゃあ、どうせ残りはもっとひどい悪文です。諦めて他の文献を探してしまってもいいかもしれません。
 ……まぁ、分野によっては、たまーに超悪文でもなぜか評価されてしまっている人とかもいて、必死こいてついて行かないといけない場合もあるのですが、それはそれ、これはこれ。
 
③Introduction(導入)からもっかい読む
 
 結論部を読んでもまだ読みたい、という場合は、今度こそ最初のIntroductionから読みましょう。あとはおとなしく読むだけ。ただ、abstractとconclusionを先に読んだ皆さんは、もう内容の理解に苦しむことはありません。適宜数式を追ってみたり、注を覗いてみたり、あるいはほかの文献の知識なんかと比べてみたり。気になったところがあれば、関連文献を引っ張り出してみるのもいいかもしれません。
 ここまでくれば論文なんてまな板の上の鯉。思うがままに骨までしゃぶりつくすことができます。
 
④参考文献も確認してみる
 
 せっかくその論文を全部読んだなら、ぜひとも参考文献にもあたってみてください。芋蔓式にどんどん文献がみつかります。
 もちろん、新しい論文を読むことになっても、さっき読んだ論文と同じように読めばよいだけ。繰り返すうちにコツもわかってきて、もっと簡単かつ正確に読めるようになります。経験値を貯めてレベルで殴れ。
 
 ちなみに、これまでご紹介した方法は、日本語の論文に対してももちろん活用できます。書籍にはそのまま応用するのは若干難しい(「まとめ」がはっきりとあることは少ないので)かもしれませんが、類似手段として、書評を先に読んじゃうという手もあります。これは結構おすすめです。
 まぁ、たまーに書評で手厳しく言われていて読む気が失せちゃった……みたいなことはあり得ますが。
 

んなこと言ってられっか! 私はDeepLを使うぞ!!

 はい、これまで散々英語論文を読め~~と言ってきましたが、まぁ何も英語のまま読む必要はありません。
 最近の自動翻訳は本当にすごいので、使わない方がむしろ損だと思います。英語能力一切必要なし! T〇EIC100点でも読める!
 
 翻訳ソフトは何を使っても構いません。Google翻訳すらも結構進歩してきていますし、もしwebページにそのまま載っているならブラウザのデフォルトの翻訳機能でも割と何とかなります。
 また、これまでにお伝えしたテクニックと一緒に使うと、さらに効果的です。
 つまり、abstractやconclusionを自動翻訳に突っ込んでみて、「あ、これ読みたいかも」と判断するのに使ってしまうわけです。これなら誰にも文句を言われません。ついでに翻訳ソフトの文字数制限にも引っ掛かりにくい。
 誤訳のリスク? どーせ私らが読んだ方が誤訳しまくりますから大丈夫ですよ(えっ
 
 「それでもやっぱり誤訳が怖い」という方。まぁ私もなんですが、その場合は原文と訳文を見比べながら読むと良いのではないかと思います。訳文に違和感があったり、重要そうなポイントっぽいと感じたりしたときに、原文に戻って読んでみるのです。これなら速度と正確性を両立できます。いえい。
 ちなみに、そのような機能を提供しているサービスとしてReadableというものがあります。このサイトで「交互PDF」をダウンロードすれば、PDFの形を維持したまま原文と訳文が読めます。
 ただ、readableもdeeplも両方無料アカウントの場合、PDFを1ページずつ入力する必要があるようで、これはちょっと手間かもしれません。
 
 単に翻訳ソフトに手で入力する場合、PDFから文章をコピーする必要があるのですけれども、これも地味に大変です。変な改行が挟まってたり、コピーすると文字化けしたり……
 このあたりは改行の削除ツール(これを使う前に、同じサイトのツールで行の後ろに半角スペースを追加しておくとよい場合があります)とかを使ってみるとうまく行くことが多いです。
 または、コピーができないPDF(写真で取り込んである場合とか)などには、直接googleドキュメントの文字起こし機能を使うという手もあります。もちろんコピー可能なファイルでも使えます。ただレイアウトが崩れたりすることも多いので、この辺はなんかいい感じにやってみてください。
 

まとめ

  • wikiも無え、本も無え、おらの村には図書館が無え! という場合も論文なら読める。読もう!
  • もしもし、わたし英語文献、いまあなたの指導教員の手元にあるの……
  • この生意気な英語文献め! 数式でわからせてやる!
  • タイトルと概要→結論→残りの順番が勝利の方程式。信頼度は05年JFK並。日本シリーズ? ちょっと何言ってるかわかんないですね……
  • 神様仏様DeepL様

 
 うーん、これはわかりにくい結論部の代表例。本文も相当な悪文でしたからね。無理もない。

※(米印)

By ※(米印)

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