アメリカの裁判所についてせるヴぁんだ
お久しぶりです。せるヴぁんだです。今回のブログ担当ということで、「アメリカの裁判所」について徒然なるままに書き散らしたいと思います。
アメリカ「合衆国」というちょっと変わった国
The United States of America, 略してU.S.A。一昔前(?) に同タイトルの曲が流行りましたが、日本人としてよくよく考えてみれば、アメリカという国は奇妙な国家形態をしています。日本の場合、「国」と言えば日本国そのもの、その下の行政単位は県、市、区、群、町…というように刻まれていきます。(道州制万歳!) 一方のアメリカは、いわゆる連邦制国家なのです。2023年現在、全部で50州を抱える国ですが、この「州」という存在がいささか厄介なのです。おそらく、多くの人が州=県のようなイメージを持つのではないでしょうか。愛知県豊田市≒ミシガン州デトロイト市のように。
しかし、実際のところ、アメリカの各州は日本の都道府県よりもはるかに強い権限を持っています。なんたって「州の憲法」が作れてしまうのですから。(おまけに州兵という州知事直轄の軍事組織まで!そう、某Grand Theft Autoなゲームで手配度が最高になるとやってくる人たちですね)このため、アメリカという国には、連邦政府たる「アメリカ合衆国政府・議会・司法」と、小さな国家とも呼ぶべき、「州政府・議会・司法」が二重で存在しているのです。日本の地方自治体にもそれぞれ議会と行政は存在し、条例も制定できますが、さすがに憲法や法律(※1)は作れません。国の唯一の立法機関は国会のみと憲法で定められています。(第41条)
※1…多数ある「法」の中でも国会で制定された法を特に「法律」と呼びます。
一番の違いは「裁判所」の構造かも
アメリカと日本は「三権分立」型の構造をしています。議会(立法)・行政・司法の三すくみですね。そのなかで、議会と行政については、上に見た通り、権限の強弱があるとはいえ、ある程度は似通っています。しかし、司法たる裁判所はまったく違う構造をとっています(なぜでしょうね?)この違いの原因を探るところまではパワーがないのですが(すみません。。。)ここでは組織構造の違いを簡単に紹介しようと思います。
1.日本
日本の場合、司法制度の頂点たる最高裁判所が1つあり、日本を八つの管区に分けて高等裁判所が設置されています。その下に第一審となる地方裁判所・簡易裁判所・家庭裁判所がたくさん存在することになります。このように、最高裁をトップとする単一ピラミッド構造が日本型司法制度ですね。
2.アメリカ
アメリカはというと、裁判所も「連邦政府」と「州政府」の2つのピラミッド構造を取ります。アメリカの統治システムは原則として州政府が責任を負い、州政府ではできないことや特に必要とされる場合に、連邦政府に権限があるようになっています。たとえば、合衆国憲法の解釈・適用に関する問題は、州の裁判所ではなく連邦裁判所が審理する権限(管轄権)を持っています。このように、連邦裁判所が管轄権を持つのか・連邦と州いずれの裁判所にも管轄権があるのかなど、個々の訴訟問題の性質によって、どこで裁判するのかが決まります。連邦と州を比べると、連邦の方が力があり、上下関係があるようにも思えますが、州の裁判所システムが連邦の裁判所システムに従属しているようなことはありません。あくまでも「異なる別の裁判所システム」としてそれぞれ独立しており、管轄権の競合があった場合にのみ、個別に調整されています。(たいていは連邦法が優先します)
A)州裁判所システム
アメリカで提起される訴訟のほぼすべては、州裁判所へと持ち込まれます。州の裁判所システムは各州によって様々であり、特に統一されているわけではありません。基本的には州地方裁判所(District Court/Trial Court)・州控訴裁判所(Court of Appeals/Appellate Court)・州最高裁判所(Supreme Court)の三審制ですが、州によっては控訴裁判所がなく、第一審と最高裁判所の二審制を採る州も存在します。(デラウェア州、サウスダコタ州、ワシントンD.C.など)
さらに、州によって憲法や法律の内容、蓄えられた経験(先例となる判例法)も違うため、同一の訴訟を別々の州で提起すると、必ずしも同じ結論や量刑にならない可能性もあります。有名な話では、国際的な企業が準拠法と管轄裁判所(※2)を選ぶ際、アメリカではニューヨーク州とデラウェア州が多いそうです。(デラウェア州なんて何もないのに!)これは、2州が企業紛争に関する豊富な先例を蓄えているからと言われています。
※2…事件・紛争が起きた時、どの国・州の法律に基づいてどこの裁判所で審理するかということ。
また、アメリカ裁判所制度の最大の特徴と言ってよいのが、「巡回裁判所(Circuit Court)」の存在です。巡回裁判所はその名の通り、管轄する地区をぐるぐると巡回して移動式の裁判をしていたのです。残念ながら今はもう存在しませんが、馬に簡易的な審理台を引かせて、判事が裁判をして回っていたそうですよ。(当時は上等なクッションもなかったので、長時間の移動と審理で判事のお尻が破壊されたとの説も)
(画像引用:HJ Erasmus, Circuit courts in the Cape Colony during the nineteenth century: hazards and achievements,Fundamina (Pretoria) vol.19 n.2 Pretoria Feb. 2013)
http://www.scielo.org.za/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S1021-545X2013000200005)
このような過去の名残として「巡回裁判所」という名称と巡回管区が残っており、現代の州裁判所システムに引き継がれているのです。巡回裁判所は州地方裁判所(District court)とともに、第一審として位置づけられることが多いです。
B)連邦裁判所システム
連邦裁判所システムも、基本的には連邦地方裁判所、連邦控訴裁判所、連邦最高裁判所の三審制を採っています。また、破産と租税など特定の分野の連邦法に関する訴訟のみを専門で扱う裁判所が存在します。日本でも、2005年に知的財産に関する紛争を専門に審理する知財高裁が設立されています。
おわりに
さて、ここまでかなりの駆け足でアメリカの裁判所システムを見てきました。訴訟大国と言われるだけあって、複雑な司法システムを持っていることが理解していただけたのではないでしょうか。もし、皆さんがアメリカで訴訟を起こすようなことがあったら、ぜひとも専門の弁護士さんを雇われることをお勧めします。それでは、またいつか。
参考文献
・最高裁判所「裁判所の組織について」
https://www.courts.go.jp/saiyo/saiyoujyouhounabi/saibansho_sosiki/index.html
・US LEGAL AID FOR LEADERS アメリカ法律力コラム第4回「アメリカの裁判制度」
https://www.jpnuslegalaidatwork.com/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E6%B3%95%E5%BE%8B%E5%8A%9B4
・American Centre Japan「米国司法制度概説」
https://americancenterjapan.com/wp/wp-content/uploads/2015/11/wwwf-outline-legal.pdf
・鹿児島大学(著者不明)「諸外国の司法制度」
https://lawcenter.ls.kagoshima-u.ac.jp/shihouseido_content/sihouseido/pdfs/dai5gijiroku-1.pdf
この記事をシェアする
コメント
日本の戦後司法はアメリカに倣っていると思っていたのですが、違いがあって意外でした。面白かったです!
コメントありがとうございます!新しい発見の一助となれたのであれば光栄です!